子どもの貧血
貧血とは何か?
貧血とは病名ではなく血中のヘモグロビン濃度が減少した状態のことをさします。ヘモグロビン濃度の正常値は年齢や性別で若干異なりますが、男性でおよそ14~18g/dL、女性でおよそ12~16g/dLです。15歳以上の男子ではヘモグロビン濃度が11~13g/dL未満は軽度貧血、8~11g/dL未満は中等度貧血、8g/dL未満は高度貧血、女子では10~12g/dL未満は軽度貧血、7~10g/dL未満は中等度貧血、7g/dL未満は高度貧血とされています。
ヘモグロビンとは何か?
血液中には赤血球という酸素を運搬する細胞があります。赤血球は赤い色をした細胞ですが、どうして赤いのでしょうか。それは血色素と呼ばれる色素を持つからです。この血色素をヘモグロビンともいいます。ヘモグロビンはその名の通りヘム(heme)とグロビン(globin)の結合した蛋白質です。ヘムは細胞のミトコンドリアの中でプロトポルフィリンと鉄が結合して合成されます。鉄はヘムを作るために必要不可欠な材料ですので、鉄が不足しているとヘムを合成することができず、その結果ヘモグロビン濃度が低下し貧血になるのです。
赤血球は骨髄で作られます。赤血球の寿命は約120日で、老化した赤血球は脾臓で壊されます。壊された赤血球中のヘモグロビンは、ヘムとグロビンに分解され、ヘムはさらに鉄とビリベルジンに分解されます(ヘムから鉄が離れる時に一酸化炭素も一緒に離れるのでプロトポルフィリンにはなりません)。鉄はその後フェリチンやヘモジデリンとなって貯蔵されたり再利用されたりします。
鉄は体のどこにあるのか?
正常人は体の中に約4gの鉄を持っています。鉄総量の約7割はヘモグロビンの中に、約3割は貯蔵鉄や組織鉄として分布しています。貯蔵鉄はフェリチンやヘモジデリンの形で存在しており、肝臓や脾臓、骨髄などの組織に貯蔵されています。組織鉄は筋肉や皮膚に存在しています。鉄が欠乏した状態では、まずこの貯蔵鉄から減っていきます。
鉄の出入りはとても閉鎖的で、摂った食べ物のうち約1mgが吸収されると同時に、汗などから約1mgの鉄が排泄されるという動きになっています。この他に思春期以降の女性では生理によって毎月約30mgの鉄が失われます。
血液検査で調べる血清鉄とは、血液中を流れる鉄で、トランスフェリンと呼ばれる鉄を輸送する蛋白質と結合している鉄のことをいいます。また、血液検査で調べる血清フェリチンとは、貯蔵鉄からわずかに分離したフェリチンのことで、貯蔵鉄の量を反映する指標として使われます。
貧血でみられる症状
赤血球に含まれるヘモグロビンの最も重要な働きは酸素を運ぶことです。よく指先で経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測りますが、これは血中のヘモグロビン100個のうち何個のヘモグロビンが酸素と結合しているかを表しています。通常ヘモグロビン酸素飽和度は動脈血で98%、静脈血で75%程度です。この差の23%が、末梢組織に送られる酸素ということになります。
貧血になると、末梢組織への酸素の供給が減ってしまい、酸欠を起こすことで、さまざまな症状が現れます。自覚症状としては、全身倦怠感、めまい、動悸、息切れ、耳鳴り、頭痛などです。他覚的な所見としては、皮膚や粘膜の蒼白、頻脈、浮腫などです。幼児では注意力散漫、易刺激性、落ち着きのなさ、認知能力や言語学習能力の低下などがみられることもあります。
特異的な症状として多いのが異食症です。特に氷を食べる氷食症(pagophagia)が有名です。他には、海苔、ガム、ラムネ菓子などを食べたいという欲求が生じることもあります。口の中での食感と鉄欠乏が関係があるようですが、詳しいメカニズムは不明です。ドリンクバーで氷ばかりバリバリ食べている人を見かけたら、その人は鉄欠乏性貧血かもしれません。
子どもの貧血の原因
子どもの貧血の原因のほとんどは鉄欠乏性貧血です。まれですが白血病や悪性リンパ腫、神経芽腫など重大な疾患が隠れていることもあり注意が必要です。
生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんから十分な量の鉄をもらって生まれてきます。しかし、その後の急速な成長に伴って出生6ヶ月~24ヶ月の間にお母さんからもらった鉄は尽きてしまうため、この時期の赤ちゃんは皆大なり小なり生理的に貧血の状態にあります。
初潮を迎えた女性は、生理によりさらに多くの鉄が失われ、思春期の急激な成長期にもあたるため、十分な鉄を食事から摂る必要があります。この時期に無理なダイエットをしたりスポーツなどでたくさんの汗をかいたりすると、鉄の供給が間に合わなくなり、貧血になるおそれが高まります。
鉄を多く含む食品
動物性の鉄はヘム鉄と呼ばれ吸収効率が高いです。植物性の鉄は非ヘム鉄と呼ばれ吸収効率が悪いですが、ビタミンCやタンパク質と一緒に摂ることで吸収効率が良くなります。レバー、肉、青魚、卵黄などが効率よく鉄を摂ることができます。海藻類の中でも特に海苔は鉄が豊富です。大豆製品、ドライフルーツなども良いです。赤ちゃんでは、離乳食メーカーから販売されている鉄入りのおやつや、ふりかけなどを利用しても良いでしょう。どれか一つに頼り過ぎることなく、いろいろな食材から鉄を摂っていくのがおすすめです。また貧血予防には鉄だけでなく、タンパク質やビタミン、ミネラルも重要です。鉄だけを補おうとせず、肉、野菜、穀類のバランスのよい食生活を心がけるようにしましょう。
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